ホンダの欠陥隠し−その概要

 

 

1.設計ミスが判明するまで
2.設計ミスについて
3.ユーザーの被害について
4.欠陥を巡るホンダの対応
5.ホームページの公開へ

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1.設計ミスが判明するまで

平成元年10月、私はアコードインスパイアというホンダの車を購入した。
しかし、何故か、この車はバッテリーが上がり易かった。 バッテリーは慢性的に充電不足の状態で、エンジンがかからずJAFの救援を受けたこともある。

車を購入したディーラーに相談するも、問題は解決しなかった。
ディーラーは、車の乗り方が少ないのが原因と見たようである。 しかし、走行距離が特に少ないわけではなく、私には納得できなかった。 以前の車と同じ使用状況で、アコードインスパイアだけはバッテリーが上がり易かった。

ディーラーには何度も相談に行き、しまいに「気にしない方が良い」と言われるようになった。 仕方なく別のホンダ販売店に相談に行くも、店の客でない者は ほとんど相手にされなかった。
こうなると、自分で何とかするほかなかった。

バッテリー上がりに対処する為 充電器を購入した。 また、原因を調べる為 車の電気関係を勉強した。 比重計を買ってバッテリー液の比重のデータを取ったり、アコードインスパイア用の整備マニュアルやテスター(電流、電圧、抵抗測定器)を購入し、自分で車を調べた。

平成3年2月になって、やっとのことで原因が判明した。 ホンダ純正の装置に設計上のミスがあり、その装置は常に作働状態になっていた。 車を使わない時も電気が流れ放しであり、バッテリーが上がり易いのは当然の話であった。


2.設計ミスについて

問題があったのは、後ろのバンパーに取り付ける障害物感知装置で、商品名をクローセンシステムと言う。 車をバックさせる時 バンパーが何かに接近すると、ブザーが鳴りドライバーに知らせる装置である。 クローセンシステムという命名は CLOSE BY SENSING SYSTEM に由来する。
このホンダ純正の装置は、ホンダの子会社ホンダアクセスが製造、販売し、ディーラーオプションとしてホンダ車に取り付けられる。 この装置の欠陥は、アコードインスパイア用だけではなく 他の車種にも及ぶ。

クローセンシステム紹介の図

設計ミスというのは、この装置のECU(Electronic Control Unit)というユニットを 車のボディに取り付ける際、絶縁対策が施されなかったことである。 本来ECUとボディの間は絶縁されなければならないが、設計段階で忘れられた。 その結果として、常時ECUが作働状態になってしまう。 車のキーが切られていても電気が流れ放しなのである。

ECUという、一般には馴染みのない言葉が出てきたが、決して難しい話をするわけではない。 ECUについて知っている必要はなく、何かの電気の装置と思って頂ければ良い。
詳細な話は別に譲るとして、要は以下の図にある通りである。 設計ミスは単純な話であり、電気の知識も中学生程度で十分である。

ECU電気回路のミスの図

ECUケースには電圧がかかっているにもかかわらず、金属製のボルトや金具で車のボディに取り付けるよう設計したことが問題である。 ご存知の方も多いと思うが、車のボディはバッテリーのマイナス端子とつながっている。 その為にECUケースからボディに電気が流れることになる。
本来の設計意図は エンジンがかかっている時にECUが作働することで、その為のスイッチが組み込まれている。 しかし、設計ミスの為にスイッチを迂回して電気が流れ、ECUは常時作働状態になってしまうのである。


3.ユーザーの被害について

車に取り付けられた時計やマイコンのメモリー等は、常に電気を必要とする。 その為、車のキーが切られていても、車には わずかながら電気が流れている。 このようなキーOFFでの電流を 暗電流(あんでんりゅう)と言うが、バッテリーがその供給源である。

エンジンがかかっていない状態では、バッテリーは充電されることなく、暗電流によって消耗する一方である。 従って、この状態が長期に及ぶと、遂にはエンジンを始動する力を失くしてしまう。
通常は、このようにバッテリーが上がる前に車が使用される。 エンジンがかかっている状態では、発電機が働きバッテリーは充電されることになる。

バッテリーを上げない為には、車を長期に放置しないことである。 このことは、車を運転する人なら誰でも知っている。
しかし、車に欠陥クローセンシステムが装着されていると、暗電流が何倍にもなり、長期放置とは言えない状況でバッテリーが上がることになる。
具体的には以下の通りである。

クローセンシステム取り付け対象車には、元々9mA〜18mAの暗電流が流れている。 数値にばらつきがあるが、これは車種や装備の違いによる。
一方、欠陥クローセンシステムには 36mAの暗電流が流れる。
従って、車に欠陥クローセンシステムを取り付けると、9mA〜18mAという元々の暗電流にプラスして、36mAが余分に流れることになる。

これによって、格段にバッテリーが上がり易くなることは明白である。 上がりが起きるまでの放置日数を考えれば、欠陥クローセンシステムを取り付けることによって、5分の1〜3分の1に短縮する。 例えば、1ヶ月放置するとバッテリーが上がる車を想定した場合、これに欠陥クローセンシステムを装着すると、6日〜10日で上がりを起こすことになる。

また、ホンダ側のデータによれば、新品で満充電のバッテリーの場合 車に欠陥クローセンシステムが装着されていると 20日〜25日の放置で上がってしまうとのことである。
新品で満充電という最高の条件下で 20日〜25日である。 実使用においては もっと短期のバッテリー上がりが普通に起こりうる。 クローセンシステムの欠陥さえなければ、その3倍〜5倍の日数長持ちしていたのである。

言うまでもなく、バッテリー上がりは、ユーザーにとってトラブルであり 少なからずの負担となる。 突然車が使えなくなると 様々な不便や不利益を強いられるし、救援を呼べば費用もかかる。
また、簡単にバッテリーが上がるとなると、バッテリーの寿命や不良と判断される可能性が大きい。 バッテリーは問題ないにも拘わらず、無駄に買い替えられてしまう。

さて、以上のように、クローセンシステムの欠陥はバッテリー上がりを引き起こす。 このことは容易に分かる。 しかし、逆に、バッテリー上がりという症状から クローセンシステムの欠陥を突き止めるのは容易ではない。
このことが何を意味するかと言えば、欠陥クローセンシステムのユーザーが 「バッテリーが上がり易い」とクレームをつけても、容易には問題は解決しない、ということである。

バッテリー上がりという症状が出ても、クローセンシステムの欠陥は隠れたままである。 手間暇かけて車を詳しく調べない限り 気付かれることはない。 ディーラーの通常の対応では、クローセンシステムの欠陥は分からないであろう。
実際、ホンダによれば、ディーラーがクローセンシステムの欠陥に気付き 報告を上げてきた例はないとのことである。

クローセンシステムの欠陥の程度からすれば、少なからずのユーザーがディーラーに相談したであろう。 しかし、誰一人問題は解決しなかったわけである。
私の場合、ディーラーは車の乗り方が少ないのが原因と考えていた。 バッテリー上がりが欠陥によって発生していることを、ディーラーは全く認識できなかった。 また、別のケースでは、ディーラーはバッテリーに不具合があると考え ユーザーに交換を勧めている。

このように、クローセンシステムの欠陥の場合、ディーラーに相談しても問題の解決は望めそうにない。 メーカーが責任を持って きちんと修理対策を取らなければ、ユーザーはトラブルを抱え続けざるを得ない。 バッテリーが上がり易い原因が分からないまま 不安を持ちながら車を使い続けることになる。

以上、欠陥がユーザーにもたらす問題として、バッテリー上がりのことだけを書いてきた。
しかし、被害としては それが全てというわけではない。 例えば、クローセンシステムで無駄に電気が流れ放しということは、結局、ガソリン代が余分にかかることである。 年単位のスパンで考えれば そこそこの損失額になるかもしれない。


4.欠陥を巡るホンダの対応

クローセンシステムに設計ミスがあることを ホンダに伝えたのは、平成3年2月のことであった。 設計段階で絶縁対策を忘れるという明白なミスであり、否定しようのないものであった。
この時すでに、1年以上前から数千個(ホンダによれば1801個)の欠陥品がユーザーに渡っていた。 ホンダからは 「既に販売された製品に対して 何らかの修理対策を取る」という言明があった。

しかし、その8ヶ月後、全く放置されていることを知った。
ホンダ宛に抗議の手紙を出したところ、平成3年11月16日、ホンダ側担当者3名が私の家にやって来た。

設計ミスは明白なので 担当者も否定することはなかった。 しかし、修理対策の必要性を認めようとはしなかった。
彼等が言うには、「設計ミスがあってもユーザーに損害も迷惑も与えていない、だから 修理対策を取る必要はない」とのことであった。

言うまでもなく、彼等の言い分は嘘、屁理屈の類である。 私自身バッテリー上がりを起こし、バッテリーの上がり易さに悩まされたのは事実である。 設計ミスの為に暗電流が何倍にもなっているのに ユーザーに問題が生じないはずはない。 当然、ホンダ側の言い分には納得できなかった。

12月16日、2度目の話し合いを持った。
この時、ホンダ側から 「市場措置を取ったので これで納得して下さい」という話があった。 担当者によれば、「クローセンシステムに問題があることを 販売店側に口頭にて伝えた」とのことであった。

ホンダでは このような措置でも市場措置として通用するらしいが、何ともずさんな措置である。 しかし、実際には、この市場措置の話は嘘と言っていいようである。 担当者が帰った後、いくつもの販売店に問い合わせたが、クローセンシステムの問題を知っている店はなかったからである。

私は、社長宛に手紙を書くことにした。 担当者と話し合うことは徒労でしかなく、嘘や屁理屈にはうんざりだった。 クローセンシステムの問題は役員レベルに上がっているとのことで、担当者に決定権はなく、何を言っても無駄であった。

12月19日、社長のご自宅宛に手紙を出した。 クローセンシステムに設計ミスがあることを知らせ、修理対策の必要性を訴えた。
これに対して、12月26日 相談部の担当者から電話があった。 社長宛の手紙が相談部に回されて来た旨伝えられ、相談部大阪の所長が一度会って話したいとのことであった。

平成4年1月14日、相談部所長等3名が私の家にやって来た。
しかし、そこで言われたことは、「クローセンシステムのことは欠陥とは思っていない。修理対策を取る意思もない」という、完全な居直り宣言であった。 本社のサービス会議の決定であり、抗議しても無駄、これ以上話し合いに応じない旨告げられた。 ホンダ側の物言いは、私を全くクレーマー扱いするものだった。

その後二週間程して、私は近所の消費者センターに話を持ち込み助力をお願いした。 「ホンダが欠陥を放置したままにしているので、修理対策を取るように働きかけて欲しい」と訴えた。

何日かして、センター員から報告を受けたが、とんでもない話を聞かされることになった。
センター員がホンダの方に連絡を取ったところ、ホンダ側担当者がセンターに出向いて来たとのこと。 そして、「クローセンシステムの不具合については 既に修理対策を取ってあり 問題は解決済み」との説明を行った、というのである。

残念なことに、センター員は車や電気について知識のある方ではなかった。 どんな嘘でも屁理屈でもでっち上げてくる企業に対抗できそうには思えなかった。 結局、消費者センターを通してホンダに働きかけるのを断念することになった。

4月になって ある自動車評論家の方に相談したところ、有難いことに、ホンダの方に市場措置を取るように働きかけて下さった。
それによって市場措置が取られることになったのだが、措置の内容となると欺瞞的と言うほかなかった。 単なる見せかけの措置で、欠陥が実質上放置されることは明らかだった。

どこまでも誤魔化しが続くので、私はクローセンシステムの問題を雑誌に掲載して頂くことにした。 と言うのも、その当時、ある月刊誌の記者から クローセンシステムの問題を記事にしたいという申し出を受けていたからである。 その記者が自動車評論家の方を取材訪問した際、私の問題を紹介されたとのことであった。
こうして、月刊誌の平成4年11月号に、クローセンシステムの欠陥問題が載せられることになった。

雑誌に記事が出て、ホンダ側も 「誤魔化しきれない」と判断したようである。 発売日の翌日、ホンダの方に問い合わせてみると、「事実関係は記事の通りで良いようです。 ホンダと致しましては 問題のあった製品に対して改善対策を取る方針です」との返答であった。

私としては、一件落着との思いがした。 改善対策と言えば、リコールと同様、ユーザーに直接連絡を取って無償修理するものである。 クローセンシステムの設計ミスに対して改善対策が取られるのなら、文句はなかった。

また、この時期、ホンダは運輸省(国土交通省)にクローセンシステムに関する報告を上げている。 このことは、このホームページを始めて後 国土交通省からのメールで知った。 それによれば、クローセンシステムの不具合に対して市場措置を取る旨、平成4年10月にホンダから報告を受けたとのことである。
月刊誌は11月号と言っても実際の発行は9月26日、運輸省への報告はその直後。 慌てて取り繕ったのであろう。

このように、月刊誌11月号の記事によって事態は急転することになったが、月刊誌に関しては まだ続きがある。 2ヶ月後、平成5年1月号でもクローセンシステムのことが取り上げられ、二人のユーザーの体験談が掲載されている。

それによれば、やはり、ユーザーはバッテリー上がりを心配していた。 ディーラーに相談してもクローセンシステムの欠陥は分からず、バッテリーの問題として片付けられていた。 一人はバッテリーの交換を勧められていた。 このような状況の中、二人は11月号の記事を読み 欠陥の事実を知ることになった。

体験談の二人は、たまたま記事を見た為に修理を受けることが出来た。 記事を見なければ、バッテリー上がりを心配しながら車を使い続けることになった。
クローセンシステムの大多数のユーザーは記事など見なかったはずであり、これらのユーザーの為に きちんとした修理対策は当然に必要であった。

この1月号の発行の後、私は、ホンダ相談部に 「改善対策の話はどうなっているのか」を尋ねた。 返答は、「現在、問題のあったクローセンシステムの購入者をリストアップしています」とのことであった。
改善対策が表明されてから2ヶ月以上も経っているのに まだそんな段階なのか、という思いがよぎったが、まさか改善対策が反故にされようとは 全く思ってもみなかった。


5.ホームページの公開へ

クローセンシステムのことは てっきり片付いたものと思っていたが、平成8年になって改善対策が取られていないらしいことを知った。
ちょうどその頃、自動車業界の紛争処理機関として自動車製造物責任相談センターなるものを知り、一度相談してみることにした。

平成8年5月9日、相談センターに電話で事情を話し、ホンダがどのような対応を取ったのか調べて頂くことになった。
5月13日、ホンダ相談部の かつての担当者から電話があった。 私に報告するよう、相談センターが取り計らってくれたようである。 この電話では、やはり改善対策が取られていないことが判明した。 不具合についての情報を販売店に流す以上のことはしていないとのことであった。 (実際には、これも嘘だった。設計ミスの事実は販売店に伝えられていなかったことが後に判明する。)

その数日後、意見を聞く為に相談センターに電話をした。 相談員の方によれば、センターにはホンダから詳しい報告が来ているが 立場上教えられないとのことであった。
しかし、欠陥製品に対するホンダの対応の仕方、責任の取り方に憤慨されている様子であった。 クローセンシステムの問題をインターネットで公開するように強く勧められた。

当然と言えば当然であるが、専門家の目で見てもホンダの対応は問題であった。 ホームページを開くことは以前から念頭にあったが、センターからも勧められ意を強くした。 しかし、一方で、告発のようなことには躊躇があった。

6月の下旬、国民生活センターに相談してみることにした。 これまでの経緯を書面にして 雑誌の記事のコピーを添えて送った。
7月9日、センターから電話があった。 センター員によれば、「ホンダに問い合わせを行い、事実関係を確認しましたので 警鐘を鳴らす意味でクローセンシステムの問題を公表することも出来ます。」とのことであった。

私がセンターに期待したのは、ホンダに対してきちんとした修理対策を取るように働きかけてくれることだった。 しかし、センター員によれば、そのような権限はないようであった。
私は「全てセンターにお任せします」と言って電話を切ってしまったが、今から思えば、公表を要請し最後まで見届けておくべきであった。 その後センターがどのように対処したか確認していない。

公的機関である国民生活センター自らが 「警鐘を鳴らす意味で問題を公表してもよい」と言ったくらいである。 私がホームページを開き 一連の出来事を書き綴ったとしても問題があるとは思えない。 それどころか、センターも言うように警鐘として公益に寄与するはずのものである。
しかし、いざとなると、告発的なことには躊躇いがあった。

平成11年の夏になって、ホンダ相談部にクローセンシステムの欠陥問題をホームページで取り上げる旨伝えた。 そして、ホームページに掲載すべく、ホンダ側の言い分等を書面にて頂いた。 しかし、実は、この時でも まだ迷っていた。
思い切ってホームページを開くことにしたのは、平成12年夏。 折しも、雪印の食中毒事件、三菱自動車のリコール隠し等、製品に問題があった場合の企業の対応が問われている時期であった。


本田技研工業株式会社殿へ
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