クローセンシステム(障害物感知装置)の設計ミス

 

 

■ クローセンシステムとは

問題の製品は、クローセンシステムという商品名の ホンダ純正用品で、バンパーに取り付ける障害物感知装置である。 具体的に言うと、バンパーが何か障害物から30cm程に接近すると、ピーという音が鳴り ドライバーに知らせる装置である。 クローセンシステムという命名は、CLOSE BY SENSING SYSTEM から来ている。

このホンダ純正の装置は、ホンダの子会社ホンダアクセスが製造、販売し、ディーラーオプションとして ホンダ車に取り付けられる。 下の画像は、ホンダ純正用品のカタログのうち クローセンシステムの部分である。

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画像にもあるように、クローセンシステムにはフロント用とリア用がある。 このうち、設計ミスがあるのはリア用で、フロント用については不明である。 電気回路が基本的に同じであることを考えれば、フロント用にも同じミスがあってもおかしくはない。

以前、この装置の電気回路図を入手しようとしたが、パテントの関係で拒否された。 従って、この装置の詳細なことは分からない。 しかし、設計ミスそのものはごく単純なもので、装置について詳しく知っている必要はない。 また、電気の知識も中学生程度で十分である。


■ 設計ミスの簡単な説明

クローセンシステムが障害物を感知する方法は、静電容量方式と呼ばれているものである。 その基本原理については、取扱説明書の中に説明があり、その部分を掲載させて頂く。

この方式では、説明やイラストにあるように、バンパーの内側にセンサー(電極線)がセットされる。 下の画像は その実際の写真であり、センサー(電極線)がバンパー内面に貼り付けられているのが分かる。

     

上の画像の中で、樹脂バンパーの内側にある 黒い金属の骨格のようなものが、バンパービームである。 そして、バンパービームの中央部に取り付けられている 黒い板状のケース、これがクローセンシステムのECU( Electronic Control Unit )である。 内部には電子部品が収められており、クローセンシステムにとって要となる装置である。

設計ミスというのは、極めて単純な話で、このECUが絶縁なしにバンパービームに取り付けられることである。

ECUの板状の筐体(ケース)は、単に電子部品を収めるケースというだけでなく、実は、センサーの一部でもある。 電極としての役割も持っており、内部の電子回路を経て バッテリーのプラス端子につながっている。
もし、このECUケースが 車のボディに接触すればどうなるか。 車のボディはバッテリーのマイナス端子につながっている為、ECUは作働状態になる。

下図の通り、本来の設計では、エンジンがかかっている時にECUが作働するよう意図され、そのためのスイッチが回路に組み込まれている。 しかし、実際の設計では、ECUとバンパービーム(ボディ)の間の絶縁が忘れられた為、スイッチを迂回して電気が流れ、ECUは常時作働状態になる。 車のキーが切られていても 電気は流れ放しで、当然、バッテリーは上がり易くなる。

ECU電気回路のミスの図

( 注 )

このページのクローセンシステムの画像は、全て私の修理済みのものである。 ECUケースの取り付けボルトの回りに 青や黄色のビニールテープが目に付くが、絶縁の為施したものである。
これによって一応は絶縁されたが、取り付けが甘くなってしまった。 ECUケースが二ヶ所でヒモでくくられているのは、仮にボルトが抜けても ECUが落下しないようにとの配慮である。


■ 設計ミスの詳しい説明

まず、クローセンシステムの構成部品を見ておく。 取り付け説明書の表紙に一覧が出ており、それを下に掲載させて頂く。

システムの中心になるのは、イラストの左端に描かれた、回路ユニットと呼ばれているものである。 このうち、四角い板状のものが 先のECUである。
ECU内部からは センサー(電極線)が出ているが、バンパーの内側にセットされることは、既に述べた通りである。 下の画像は ECUの近景であり、センサー(電極線)が出ているのが分かる。 ( 但し、下方向からの撮影。 電極線が出てくる側面を撮るには バンパーとバンパービームをばらす必要がある。)

ECUの外観は見ての通りであるが、筐体(ケース)は金属製で、内部には電子部品が収められている。 しかし、この金属製ケース、単なるケースというわけではない。

クローセンシステムのECUに特徴的なことは、ケースが電極としての働きを持つことである。 電子部品の容器であると同時に、センサーの一部として電極の役割も担う。
ケースからは何本もセンサー(電極線)が出ているが、ケースそのものも電極であり、内部の電子回路を経て、バッテリーのプラス端子につながっている。

どの車にしても、車のボディというものは バッテリーのマイナス端子につながっている。 従って、もし、ECUケースがボディに触れることがあれば、ECUは通電する。 バッテリープラス端子→ECU電子回路→ECUケース→ボディ→バッテリーマイナス端子、このように電気が流れることになる。
下の画像は、ECUケースがボディと接触すれば 36mA程の電流が流れることを示している。

設計ミスというのは、ECUケースを絶縁せずにボディ(バンパービーム)に取り付けたことであり、上の画像と同じ状況になる。 ECUは常に作働状態になり 電気が流れ放しとなる。 本来、ECUは絶縁してボディに取り付けられなければならない。

本来の設計意図では、エンジンがかかっている時にだけ ECUが作働するはずであった。
その為に わざわざリレー(スイッチ回路)が組み込まれている。 リレーの役割は、エンジンがかかったことを感知して ECUのスイッチを入れ、逆に、エンジンが止まったのを感知して ECUのスイッチを切ることである。 ( ちなみに、リレーが エンジンがかかったのを感知するのは、電流の中にスパーク等による「雑音」を感知することによる。)

ところが、実際には、ECUケースは絶縁なしにボディに取り付けられ、そこに電気の通り道が出来る。 リレーを迂回して電気が流れ、ECUは常に作働し続けることになる。

下の画像は トランクルーム内のリレー装置の写真であるが、設計ミスの為に この装置は不要になる。 ECUは常に作働しており、スイッチをON、OFFしても意味がないからである。 ユーザーは不要なものにお金を払い 無駄に取り付けている格好になる。 ホンダが「修理対策の必要性なし」と主張するなら リレー装置の代金をユーザーに返すのがスジであろう。

以上、設計段階で絶縁対策が忘れられたことを書いて来たが、そのことを取り付け説明書で見ておく。
下の画像は ECUケースの取り付けを説明した個所である。 ECUケースが ボルトとブラケットでバンパービームに取り付けられるのが分かる。 ボルトもブラケットも共に金属製であり、絶縁対策が全く抜け落ちている。

  

ホンダによれば、設計ミス判明後に販売されたクローセンシステムについては、バンパービームとブラケットの間に絶縁シートを挟み、ボルトを樹脂製にしたとのことである。


以上のように、ECUが常に電気を食う為 バッテリー上がりなどのトラブルを引き起こすが、クローセンシステムを使用するにあたって 何か問題が出るわけではない。 正常品と全く同じように きちんと使用目的を果たす。 使用していて、欠陥があるとは 全く気付くことはない。 盲点のような欠陥であり、メーカーの品質検査をすり抜けてきたこともうなずける。

ちなみに、この設計ミス、分かってしまうと何とも単純で うっかりミスと思われるかもしれないが、ミスの発生の経緯を考えてみると 伏兵のようなミスだったと思う。 詳細は省くが、ミスは電源の取り方を設計変更した際に生じたと考えている。
注意していても意識に入ってこないようなミスで、設計者が必ずしも不注意だったわけではない。


■ 設計ミスの事実はディーラーに伝えられたか

以上、クローセンシステムの不具合について説明してきた。
明らかな設計上のミスであり、製品は悉く欠陥品である。

ところが、ディーラー側には このことが最後まで伝えられなかったようである。 ディーラー側には「クローセンシステムで電気が流れ放しになるのはリレーが故障しやすい為」という誤解がある。
メーカー側がどのような説明をしたか知らないが、不具合の原因が何であったかは 月刊誌にも記載されている。

決して「故障しやすい」という問題ではなく、製品は最初から全滅状態である。
メーカーは事実を言えなかったのかもしれない。

( 注 )
設計ミスにより全ての製品で電気が流れ放しになっている事実を隠し、単にリレーの故障により電気が流れ放しになることがあるという問題にすり替えた疑惑については、平成14年11月、ホンダへの質問状の中で尋ねてみた。 詳しいことは、トップページ目次の「終わりに − ホンダへの質問状」にあります。


■ 修理方法について

修理方法としては、ECU取り付け部位を絶縁すれば良い。 具体的には、バンパービームとブラケットの間に絶縁シートを挟み ボルトを樹脂製にすることである。
しかし、この正攻法の修理方法の難点は 作業が面倒なことである。 バンパーやバンパービームを取り外さねばならず、作業に1時間位はかかってしまう。

そこで、もっと簡便な方法が考えられたようで、月刊誌のユーザー体験談を見れば 新たにリレーを組み込んで暗電流を防止している。

推測になるが、ECUのプラス側に新たにリレーが組み込まれたものと思われる。 この方法では作業が非常に楽で、トランクの内張りを少し外し リレーをカプラに割り込ませる程度のことである。
さらに、この修理方法がメーカーに好都合なのは、「クローセンシステムで電気が流れ放しになるのは 元のリレーが故障してONに固着する為」と嘘の説明ができることである。 設計ミスにより全ての製品で電気が流れ放しになっている事実を隠し、故障が出るという軽微な問題にすり替えることが出来るのである。

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